あたしにはお世辞にも美人とは言えないし、勉強だってそんなにできないし、性格だってここまで聞いたら分かると思うけど、どちらかというと暗いほう。学校だってそんなに楽しくないし、休日が待ち遠しくなるほどの趣味なんて持ってない。 だけど、すごく幸せなのは、彼がいるからだと思うんだ。 「、おはよう!」 彼は、大して会話しても楽しくないだろうあたしに、毎日話しかけてくれる。明るくて、あたしとは違ってはきはき物をしゃべる、ムードメーカー的存在。だからなのかな、周囲をとても見ていて、朝と、帰るときと、あたしの様子がおかしいと気づいた時には声をかけてくれる。一見すると能天気そうなのに、気配りは細やかで、一言で言えば、あたしは彼が好きなんだ。 入学してすぐ、馴染めなくて少し落ち込んだ時も、やっと慣れてきたのに些細なミスで気が滅入ってしまった時も、彼は声をかけてくれた。だいじょーぶ?お茶でもしながらゆっくり話そっか?なんて。 恥ずかしくてとてもその誘いには乗れなかったけど、本当はすごく嬉しかった。行きたかった。 彼はいつもキラキラしてて、あたしじゃ体験できないような日常を話してくれるから、まるであたしもあたしじゃなくなるみたいで、いつか彼の前に立っても恥ずかしくない人間になって、彼をお茶に誘ってお礼しようって、そう思った。 「お、おはよう」 「今日、1限で世界地図いるらしーんだけど、聞いた?」 「えっ……い、今初耳……ご、ごめんね!ありがとう!あたし、急いで取りにいってくる!」 「待って待って待ーって!やっぱりなぁ、そうだと思ったんだよね」 人一倍責任感強いのことだから、無理してでも持ってこようとすると思って待ち伏せしてたんだよね!彼はそういうと、あたしの鞄をひょいっと取り上げて、行こっか?と笑った。 何のことか分からずに首を傾げると、地図、取りに行くんでしょ?と。 「え……いやいや!あたしが世界史担当だしっ……紀田くんはいいよ!」 「ガーンっ!それって俺とは一緒にいたくないってこと?俺、に嫌われるようなことしたっけ?ああ、ショック……」 「ち、違うの!そうじゃなくって……」 ならいいよね!にこっ。 そうされたらどうしようもないことを、彼は分かってやっているんだろうか。いや、分かってないんだろうな。俺はイケメンだ!モテる男はつらいなぁー、なんて豪語する彼だけど、自分のことは誰よりも分かっている。口で言うほどナンパじゃないんだ。そういうところも、好きだから、わかる。 とりあえず、と鞄を取り返そうとしたら、お持ちしますよお姫様、と彼はにっこり。だから、そうされたらどうしようもないんだってば……! あたしは本当にどうしようもなくなって、大人しく彼の隣を……正確に言うと、二歩ほど後ろを、歩いた。 「世界地図ってなんであんなデカいんだろうな?長いし重いししかも授業では大してつかわねーし!冊子とかで済ませろよって話だよな。いや、そもそも、あんなでけーもん持つ係に女子を当てんなって話か!世のフェミニスト代表として俺は声を大にして言いたい!女の子は守るものなんだ!女の子の荷物は俺がすべて引き受ける!ついでに、すべての女の子も俺が引き受ける! 大体世はデジタルなんだぜ?スクリーンに映したりとかすればいいのになー。……あ、でもそれはそれで機材重いか……。やっぱ冊子が最強だな。むしろ、地図はセルフサービスになっております!とかさ」 止まることのない彼の喋りに、あたしはうんうん頷くことしかできない。ここできちんと会話ができればいいのに、やっぱりあたしはだめだ。 こんなんだからいつまでも彼とお茶できないんだと少し自己嫌悪していたら、彼がじっとあたしの目を見つめていた。 どうしたのかな、と首をかしげて目を逸らすと、 「ははーん」 と彼は唇を吊り上げた。 「ってもしかして、あんまし男と喋ったことない?」 「!!!」 やっぱり、と彼は笑った。今日会ってからというもの、あたしの思考は完璧に彼に把握されている。なんで、わたしそんなにわかりやすい!?ぐるぐる目を回していると、彼はうんうん、と納得したように頷いていた。 「じゃ、もしかして、俺が男友達一号だったりする?」 「え、あっ……あの……」 「いやー、初!俺が初!初めての人!やばい、俺の波が完璧に来てる……!運命は俺に味方してる……!」 あたしは盛り上がる彼を止めることができず、なんやかやで世界地図を抱えた彼の隣を……正確には一歩後ろを歩くことになった。申し訳程度に彼の持つ地図に手を添えて、ちょこちょこ歩く。 半分持つよって言ったのに、断られてしまった。それでも食い下がったら、じゃあそっちの端が人に当たらないように持っててくれるかな?なんて。どこまでやさしいんだろう。 「なんか、ごめんね。朝からこんなもの持たせて……あたしの仕事なのに……」 「いーのいーの!俺が勝手に言い出したことだしさ、それを言ったら、朝から美少女と歩ける俺は幸せモンだぜ!?」 むしろ俺の方が幸せすぎてゴメンナサイ!なんて。 彼はやっぱり、やさしい。一緒にいると、胸がほわんってあったかくなる。そして、自然に笑顔になるんだ。 大好きだ。 あ、そうだ。と彼は手を打った。 「あのさ、本当に俺に対して申し訳ないと思ってるなら、今日の放課後、お茶しない?とりあえず、男友達第一号として色々伝授しておきたいんだよね!注意しておくべきこととか、男心の掴み方とか、むしろ俺の心の掴み方とか!」 いつものあたしなら、ごめんなさい、と断っていただろう。恥ずかしくって、そんなことできない。けど、今日は朝から彼とたくさんおしゃべりできて、一緒に歩けて、友達って言ってもらえて、美少女って言ってもらえて……一言で言えば、浮かれていたんだ。 「あ、たしの……おごりなら」 「えー!フェミニスト代表としてはそんなんダメ!むしろ俺がおごるべき!……けど、お茶はしたいから、妥協してワリカンでどう?二人っきりが嫌なら帝人とかも誘うしっ……って俺必死すぎ!」 「……ふ、たりがいい!」 言ってから、ものすごく恥ずかしくなった。告白しているようなものだ。 あ、あの、ととりあえず言い訳をしようとちらりと彼を見たら、彼は彼らしくない、幸せそうな顔をしていた。そして地図を抱えている手で、無理やりガッツポーズをすると 「っしゃー!」 と叫んだ! 「やった!良かった、俺嫌われてなかった!俺の時代来てる……!やっぱり来てる……!あー、断られたらどうしようかと……!良かったぁ!」 彼がすごく嬉しそうで、あたしはすごく恥ずかしくて、でも、嬉しかった。 彼はにこっと笑って、やくそく!と言ってくれた。 あたしにはお世辞にも美人とは言えないし、勉強だってそんなにできないし、性格だってここまで聞いたら分かると思うけど、どちらかというと暗いほう。学校だってそんなに楽しくないし、休日が待ち遠しくなるほどの趣味なんて持ってない。 だけど、すごく幸せなのは、彼がいるからだと思うんだ。そう、彼がいて、彼のことが好きだから。 あいしあわせ |